【小説】スクリーンは瞼の裏
2040年5月4日4時46分。
今日は祝日の朝。今日も素晴らしい一日がまります。
今日は人生にとって最高の一日になります。
記憶は戻れないある日からずっとずっとこうして朝が始まります。
「あーワクワクする一体今日はどんなにすばらしい一日になるのか」
瞼を閉じると私は映画の主人公になれる。
これは空想の話じゃなくてそういうアプリがあるんです。
映画はAIが今の自分のメンタルにぴったりの作品を自動でセレクトしてくれます。
今日は「アバウト・タイム」2014年の作品。
主人公の青年が21歳の誕生日、代々タイムトラベルを繰り返す体質を受け継いでいることを告げられます。暗い場所に行ってイメージすれば過去の好きな時にいつでも行くことが出来るようになります。
瞼配信だとAIが一番今日の自分にふさわしい登場人物になって映画の中に入ります。
一度見たことがある映画でも自分で選べないのがまたスリリングでエンディングまで行った時に初めてなぜこの配役になったのか理解することが出来るのが醍醐味の一つです。つまり同じ映画を色々な登場人物の視点から体験することが出来るということです。
今日は主人公のティムでした。「失敗した!」と思ったらすぐに時間を巻き戻してやり直すそんなアブノーマルな生活で仕事、恋愛、結婚と人生を歩みながら、徐々に今を生きるタイムトラベルの必要のない普通の幸福な日々が繰り返されるようになります。
そして父の最後の時が来ます。死に目に会えずお葬式の日にタイムトラベルで生前に会いに行きます。父親が50歳で教授職を退職してずっと家で隠居生活をしていた意味を知り、タイムトラベルとどう向き合うべきかを伝授されます。
それはタイムトラベルがなくても誰でも実は実行できるような行動でした。普通の日常ももう一度やり直してみるというものでした。それをティムが実行する短いシーン。ここがこの映画の一番の見せ場に違いないと体感しました。
ティムは弁護士でしが同僚のミスで負けが決まっているような裁判の日、結局は勝つことになっても、就寝前のベッドでは妻のメアリーに「疲れた」と呟いて終わる一日。
この一日をやり直してみる。起こる出来事は全く同じなのに全く違った笑顔でキラキラした一日にリメイクされるのです。気の持ちようで一日は全く違うものになるということを肌で理解することが出来たのです。
ティムはどちらかというと心配症でネガティブな性格。周囲には優しくて弁護士だし頭も良い方のはず。しかもタイムトラベルも出来るのに何だか人生が幸せじゃない。それを父からのアドバイスで克服することが出来た一日でした。
見方を変えれば全てが感謝することばかり。そのことを体感することが出来て「父を超えた」と自覚したのです。息子を静かに見守り幸せへと導く父親の存在意義はこの映画では大きいものです。
メアリーの希望で3人目を作ることを決め父親との決別が決まり2人で子供時代の砂浜に戻って走るシーンは全身で楽しめ亡くなった父と共にいました。
さあ映画鑑賞はこれくらいにして私もリアル生活でティムになってキラキラ輝いた一日をメイキングしよう!