【小説】(第2話)コロナ禍地獄!夫婦喧嘩を犬に食わせる
“夫婦喧嘩を犬に食わせる”
これは私たち夫婦が初めて開発したスマホアプリです。
私は前々からアプリを作りたいと思っていたのですが腰が重くてなかなかアクションを起こせずにいました。
浮かんでくるアイデアの火種はあったのですが時間と労力のリスクに鎮火されてしまう程度のものばかりでした。
着火に成功したのはペルソナがクリアだったからです。
この時初めてペルソナとターゲットの違いを理解出来たことは、その後のアプリの開発にずっと生かされています。
ペルソナは弟夫婦に他なりません。
アラフィフの夫婦。
奥さんが専業主婦。
仲が悪い。
大学生の子どもが2人いる。
などなど。。
思いは一つ。
何とか弟夫婦を救えないかということ。
このままじゃ「離婚」しかない末路。
キーワードは「夫婦喧嘩は犬も食わない」でした。
アプリの使い方の流れは以下の通りです、
①夫婦喧嘩を始めるとアプリが自動で起動し録音を開始します。
②思いっきり喧嘩をしてOKです。
③どちらかが暴力をふるいそうになるとアプリが察知して、大音量のサイレンのアラームが鳴り「暴力は危険です」のアナウンスが連呼される。
④喧嘩が30分を超えると「気が済みましたか?そろそろ終わりにしましょう」と大人の言動が流れ、続いて録音された喧嘩の内容が大音量で聴こえてきます。
⑤その後約30秒で「喧嘩の要約が出来ました。犬に食べてもらいます」というおかしなメッセージが流れリアルな大きさの3D犬が現れて文字をパクパク食べてしまいます。
こんなアホっぽいアプリが“夫婦喧嘩を犬に食わせる”でした。
弟夫婦が離婚の危機にあると知った後約一か月で作り上げました。
「何とか2人の間にアクセスできないだろうか?」
アプリを弟にプレゼントしました。
凶と出るか吉と出るか。
「良かったら使ってみて」と一言メッセージを添えて。
「ありがとう」と返信がありました。
義妹は別居中もほとんど毎日家に帰ってきて、弟に何かと言いがかりをつけて一戦交えて、その後弟が実家まで送って行くという繰り返しだったといいます。
一戦交える時にこのアプリを使ってくれればという思いでした。
凶と出たのか?吉と出たのか?全く使われず放置だったのか?
そんな思いはいつも頭の中を巡っていましたが、同時にアプリはじわじわ売れ始め小遣い程度の収益が入りました。
アプリ開発の初めての成果に心は踊りまくっていました。
それでも最初のペルソナに活用して欲しいという一番の思いはずっと留まっていました。
本当に私が飛び上がって拍手してステップを踏んだのは半年後でした。
「弟から家族で再び暮らせるようになった。アプリのおかげ」というメッセージが届いたのです。
「アプリのおかげ!」
他のユーザーからも「アプリに救われました」とか「仲直り出来ました」とか、感謝のメッセージを沢山もらってい嬉しい気持ちがありながら同時に
「こんな言葉をもらう資格があるのかな?人の弱みにつけこんで」
とか抑えられないネガティブな気持ちも持ち合わせていました。
それが弟からの「アプリのおかげ!」の一言が心に突き刺さって私のわだかまりの気持ちをえぐり取ってくれました。
「こちらこそ感謝!弟夫婦に感謝です」
私は動きました。
無力感にさいなまれながら何か力になりたい。そんな思いで。
弟も動いてくれた。
兄弟で立ち止まらないで動いた。
結果的に闇を吹き飛ばしハッピーを引き寄せることができたのです。
この出来事を通して私も人生にとって大切な気づきがありました。
今まで何を何のためにやっていいのか霧の中で模索していたことに気づき
「誰かの幸せのために自分に出来るものを作り続けたい」という自分の本心が見えたのです。